令和3年6月25日 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部より転載
1.はじめに
新型コロナウイルス感染症の抗原定性検査は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2) の 構成成分である蛋白質(抗原)を、ウイルスに特異的な抗体を用いて検出する検査であり、抗原定性検査に用いるキットのうち薬事承認を得ているものは、検体として鼻咽頭ぬぐい液又は鼻腔ぬぐい液を用いた場合に有効性があるものとして承認されています。このうち鼻腔ぬぐい液は、被検者による自己採取が可能であり、その場合医療従事者の管理下で行うことが原則ですが、医療従事者が常駐していない高齢者施設等において従事者等に症状が 現れた場合にも早期に感染リスクのある者を発見することによって感染拡大を防止する観 点から、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針第4版」において、「医療従事者が常駐していない施設等において迅速に抗原定性検査を実施するために自己採取を行う場合は、検体採取に関する注意点等を理解した職員の管理下で適切な感染防護を行いながら実施する」とされました。これを受けて、施設を含む事業所(以下、「施設等」という。)の職員の管理下で抗原定性検査を行う場合の注意点等について本ガイドラインにおいてとりまとめましたので、医療従事者の不在時に抗原定性検査を実施することが考えられる施設等においては、本ガイドラインの内容を理解し、適切な検査実施のために必要な体制を整えた上で検査を実施してください。さらに自施設が使用する予定のキットを確認の上、各キットの添付文書や、メ ーカーによるパンフレットや動画資料についても確認し、検査の実施方法について十分理解するようお願いします。
(各メーカーの資料については、厚生労働省ホームページに、各 ウェブサイトのURLを掲載しています。)
また検査の実施により、偽陽性(実際は感染していないのに、結果が陽性になること) や偽陰性(実際は感染しているのに、結果が陰性になること)の結果が出ることもあります。各施設においては、施設内で実施した検査の結果が絶対でないことに十分留意し、検査結果が陰性の場合であっても医療機関を受診するなど、検査実施後の対応について本ガイドラインを参考にした上で医療機関等と協議し確認してください。
なお、本ガイドラインは、検査に関する技術的事項について、「新型コロナウイルス感染 症(COVID-19)病原体検査の指針」検討委員会の助言を得て作成しています。
2.検査対象
施設内等事業所において新型コロナウイルス感染症の感染リスクがある者を早期に発見するため、医療従事者の不在時にも必要に応じて抗原定性検査を実施することとした施設 等(以下「検査実施施設」という。)においては、出勤後や登校後などに、発熱、咳、咽頭 痛、頭痛、筋肉痛、下痢、倦怠感などのかぜ症状その他新型コロナウイルス感染症の初期症 状として考えられる症状が認められた者(以下「有症状者」という。)に対して、本人の同意を得た上で検査を行うものとします。
ただし、出勤等の前に既にこれらの症状を自覚している場合には、出勤等せずに医療機関 を受診するようにしてください。また、施設等内の有症状者が、その場で検査を実施せずとも直ちに医療機関を受診できる場合には、検査の実施を待たずに速やかに受診するようにしてください。
なお、他者による鼻腔ぬぐい液の採取は感染等のリスクを伴う可能性があることから、医 療従事者の不在時における抗原定性検査は、有症状者本人が施設等の職員の説明等により検査の実施法を理解し、他者の介助なしで自己採取を行うことが可能な場合にのみ実施してください。(有症状者本人が自己採取を行えない場合には、医療機関を受診するか、医療従事者により検査を実施してください。)
3.事前準備
(検査実施管理者のリスト化)
・検査実施施設においては、検査の実施に関して必要な事項・注意点を理解し、実際に検査を行う際に被検者への指示や検査結果の判定等を行う職員(以下「検査実施管 理者」という。)を事前に定め、検査実施管理者となる職員のリストを作成し、保管します。検査実施管理者となる職員は、本ガイドライン及び各キットの添付文書等の 内容を理解した上で、厚生労働省ホームページ上にある理解度確認テストを受検し、 所定の点数を得るようにしてください。
(連携医療機関の確保)
・検査実施施設は、検査実施時に以下の役割を担い検査実施施設を支援することが可能な医療機関(以下「連携医療機関」という。)を事前に確保し、連絡先とともに リストを作成し、保管します。(連携医療機関は、新型コロナウイルス感染症の診療・ 検査及び患者の診断を行う医療機関であることとします。)連携医療機関が曜日によ って異なる等の理由で複数ある場合には、全ての連携医療機関を含めてリスト内に 記載します。検査実施施設は、連携医療機関との協議により検査実施後の対応につい て事前に定めておきます。
・連携医療機関の役割
・施設内で実施する抗原定性検査の対象とすべき症状の目安や、検体採取・キットの使用・判定の方法、検査実施後の対応について、検査実施施設からの求めに応じて助言を行う。施設内で実施する抗原定性検査の結果が陽性だった場合に、できるだけ速やかに被検者の診療を行う。
・施設内で実施する抗原定性検査の結果が陰性だった場合に、被検者の診療または必要な助言を行う。
※ 施設内で有症状者が同時に多数発生する場合等、連携医療機関だけでは対応困難な可能性がある場合の対応についても、事前の協議で確認します。
・ 有症状者が自己採取することが困難であり、医療機関を速やかに受診することも難しい場合には、往診や往診可能な医療機関の紹介等によって適切に診療につなげる。
(検査キットの確認・保管)
・ 抗原定性検査に用いるキットが薬事承認を得ているものであることを確認し、添付文書に記載された方法に基づき適切に保管し、在庫量について定期的に確認しま す。
(検査実施場所の確保)
・施設内で抗原定性検査を実施する場所について、以下の条件を参考にあらかじめ定めておきます。
・検査実施場所の条件
- 換気が適切になされていること。
- 検査実施管理者が、被検者が検体採取を行う位置から2メートル以上距離を置いて立ち会うことができるだけのスペースがあるか、被検者が検体採取を行う位置と検査実施管理者が立ち会う位置との間にガラス窓のついた壁等による隔たりがあること。
- 不特定多数の人が往来する場所ではなく、実際に検査を行うときに、被検者と検査実施管理者、検査実施管理者を補助する職員(いる場合)以外は検査実施 場所から離れることが可能であること。(感染防護具の確保)
検査実施の際の感染防護のため、サージカルマスクまたは不織布マスクと手袋が検査実施施設内に確保されていることを確認します。 (検査に使用する物品の廃棄法の確認)・ 使用後のキットの廃棄に当たっての具体的な処理手順について、キットの添付文書のうち廃棄上の注意の項を参照した上で、廃棄物の回収事業者に確認します。(施設内マニュアルの作成)
・上述の事前準備で定めた以下の項目について、実際に検査を行う際に検査実施管理者その他の職員がすぐに参照できるよう、マニュアルとしてまとめて記録してお きます。
・施設内マニュアルに最低限含まれるべき内容
・連携医療機関の受診方法を含めた検査実施後の対応
・検査キットの保管方法(保管場所を含む。)
・施設内における検査実施場所
・被検者や検査実施管理者等が装着する感染防護具とその保管場所4.検査実施時
・検査実施施設において、発熱、咳、喉の痛み等の症状のある有症状者が認められ、 その有症状者が直ちに医療機関を受診することが困難な場合は、本人の同意を得た上で検査を行います。
(感染防護のための装備)
被検者は、サージカルマスクまたは不織布マスクを装着します。検査実施管理者は、サージカルマスクまたは不織布マスクに加えて、手袋を装着します。複数の被検者に対して検査を実施する場合には、検査実施管理者の手袋は検査実施毎に交換します。
(事前説明)
検査実施管理者は、検査実施について被検者の同意を得る際に、連携医療機関との事前の取り決めの内容に応じて、検査実施後に連携医療機関を受診する必要があることを説明します。検査実施管理者は、検体採取・試料調製・試料滴下に関する手順を被検者に説明します。可能な場合には、使用するキットを製造するメーカーの提供する動画資料等を被検者に視聴させます。
(検体採取・試料調製・試料滴下)
・検査における検体採取・試料調製・試料滴下の行程は、検査管理者の立ち会い下で被検者本人が行います。(被検者本人が検査の実施法を理解し、自立して自己採取が可能でない場合には、医療機関を受診するか、医療従事者により検査を実施すること。)・以下の一般的な手順に加えて、検査管理者は各製品の添付文書における使用方法 や使用するキットを製造するメーカーの提供するパンフレットや動画資料を必ず確 認・理解した上で、採取等の方法について被検者に説明を行います。この際、採取法について理解しているかを含め、被検者が適切に自己採取を行えそうか確認してください。
・検査管理者は、被検者がこれらの行程を適切に実施できているか確認します。その際、検体採取については、被検者とガラス窓のついた壁等により隔てられた位置から確認するか、被検者と2メートル以上距離を取り被検者の側面などから確認するなど、被検者から飛沫を直接浴びることのないようにします。
・検体採取によって鼻出血が生じた場合には、被検者は座った状態で顔をやや下向きにして、鼻をつまんで 10 分間程度押さえるようにします。
※検体採取~試料滴下の一般的な手順と留意点
<検体採取(鼻腔ぬぐい液の自己採取)>
1 被検者は、他者と向き合わない方向を向くか、他者とガラス等により隔てられた位置に移動する
2 マスクをずらし、鼻のみを出す
3 鼻孔(鼻の穴の入り口)から2cm 程度スワブを挿入する
4 スワブを鼻の内壁に沿わせて5回程度回転させる
5 5秒程度静置し、引き抜く
6 スワブが十分に湿っていることを確認する
7 マスクを戻す※ 他者による検体採取は感染等のリスクを伴う可能性があり、また、鼻咽頭ぬぐい液の自己採取は危険かつ困難であるため、医療従事者不在時の検体採取は、鼻腔ぬぐい液の自己採取によって行いま す。
※ 同一スワブで両側の鼻腔から採取することを推奨している製品もあるため、添付文書の記載を確認 すること。 ※ 検体採取中にくしゃみや咳が出る場合には、マスクを上げて鼻と口を覆うように伝えておく。
<試料調整>
1 採取後ただちにスワブをチューブに浸す
2 スワブの先端をつまみながら、チューブ内でスワブを10 回程度回転させる
3 スワブから液を絞り出しながらチューブからスワブを取り出し、スワブを破棄する
※スワブの破棄は、検査に用いた物品を破棄するための専用のビニール袋に入れる等、事前に定めた方法に則る。4 各キットに付属する蓋(フィルター、ノズル、チップ等)をチューブに装着する
5 (製品によってはそのまま一定時間静置する)<試料滴下>
1 チューブから数滴(製品により異なる)、キットの検体滴下部に滴下する 2 製品毎に定められた時間(15 分~30 分程度)、キットを静置する(結果の判定)
・判定の方法については、各製品の添付文書に加えて、判定結果を示している実際のキットの写真が含まれている各製品のパンフレット、動画資料等を確認してください。
・試料の滴下を行ってから判定を行うまでの時間は、各製品毎に異なります。指定された時間を過ぎた場合、キット上に表示される結果が変わることがありますので、各製品の添付文書を確認し、特に陰性と判定する場合には、必ず指定された時間で判定してください。(陽性の判定については、指定された時間の前でも可能なキットもあります。)・キット上に表示される結果が明瞭でなく、判定が困難な場合には、可能であれば その場で連携医療機関からの助言を受けることも考えられますが、判断がつかない 場合には、その後の対応は陽性であった場合と同様に取り扱ってください。
・医療従事者が不在時の抗原定性検査については、診療ではないため、結果に基づ いて医師以外の施設管理者や検査実施管理者が被検者が感染しているか否かについて判断を行うことはできません。(診断は、医師のみが可能な行為です。)このため、結果の判定について、医師でない検査実施管理者が責任を負うものではありません。
5.検査結果に基づく対応
(1)陽性の場合
・検査結果が陽性であった者は帰宅・出勤停止とした上で、速やかに連携医療機関の医師による診察を受けることを徹底してください。医療機関により感染性がないと判断され、症状が軽快するまでは療養を行ってください。(2)陰性の場合
・偽陰性の可能性もあることから、施設管理者又は検査実施管理者は、体調が悪い職員の連携医療機関の受診を促すようにしてください。また、症状が軽快するまで自宅待機とするなど、偽陰性だった場合を考慮した感染拡大防止措置を講じてください。(3)判定が困難であった場合
・キット上に表示される結果が明瞭でなく、判定が困難な場合には可能であればその場で連携医療機関からの助言を受けることも考えられますが、判断がつかない場合には、陽性であった場合と同様に速やかに医療機関を受診するようにしてくだ さい。6.検査実施後の対応
・検査実施毎に、検体採取を行った場所(机、ドアノブ等)を、厚生労働省ホームページ「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」(※)の「3. モノに付着したウイルス対策」を参照の上、消毒します。
※ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html
・キットや感染防護具、スワブをビニール袋に入れて密封するなどした上で、施設の取り決めに従って廃棄します。
・被検者と検査実施管理者は、石けんと流水による手洗いか、消毒薬を用いた手指の消毒を行います。