Disease OUTBREAK NEWS

海外渡航者への注意喚起です。

麻疹ーアフガニスタン・イスラム共和国での急増

アフガニスタン・イスラム共和国( 以下「アフガニスタン」という。)では麻疹が風土病として存在しており、毎年ほぼ全ての州から疑い例が報告されています。2019年と2020年の感染が少なかった時期を経て、アフガニスタンの人道危機の中、2021年7月末から全州で麻疹疑い患者の週次の届出が増加し、2022年1月の直近4週間には最多の週次報告数が確認されています(図1)。2022年第4週(1月24日に始まる週)から2022年第5週(1月31日に始まる週)にかけて、患者数は18%、死亡者数は40%増加しました。


図1. 2018年第1週から2022年第4週までのアフガニスタンにおける麻疹疑い患者報告数の週別推移 出典:WHOアフガニスタン国事務所、WHO東地中海地域事務所。

2021年1月1日から2022年1月29日までに、アフガニスタンで35,319件の麻疹疑い例が報告され、そのうち3,221件(報告疑い症例の9%)が7つの基準検査所(うち1つが国の検査所、6つが地域の検査所)でIgM-ELISAにより検査確定例となりました。麻疹の疑い例のほとんど(報告疑い症例の91%)は5歳未満の小児で発生したものです。同期間中,確認された患者のうち156人が麻疹による死亡を報告し(症例致死率(以下「CFR」という。)が 4.8%。)、報告された死亡者の97%以上が5歳未満の小児でした。死亡者数は比較的少ないものの、症例数の急増から、今後数週間は死亡者数の報告が急激に増加する傾向が続くと思われます。


WHOによるリスク評価

麻疹は、空気感染や感染者との直接の接触によって感染するウイルスによる非常に感染力の高い、一方でワクチンで予防可能な疾患です。ワクチン未接種の幼児は、麻疹とその合併症(肺炎や脳炎など)にかかるリスクが最も高く、死亡することもあります。麻疹の流行は、特に幼い栄養失調の子どもたちの間で、高い致死率を伴う伝染病となる可能性があります。

アフガニスタンは、紛争の影響を受け脆弱な環境にあると考えられています。同国は長年にわたり複合的な危機や投資不足にあり、安定した状況に欠けたり干ばつに直面し、現在では緊急の食料危機の状態にある人の数が世界で最も多くなっています。ユニセフによると、アフガニスタンでは1,400万人が深刻な食糧不足に直面しており、推定320万人の5歳未満の子どもたちが急性栄養失調に苦しんでいます。

アフガニスタンで大規模かつ広範囲に麻疹が発生し、報告数が増加しているのは、麻疹含有ワクチンの初回接種 (以下「MCV1」という。) と2回目接種 (以下「MCV2」という。) の両方の接種率が低いことに加え、発生の影響を悪化させている様々な複雑な要因(重度な急性栄養失調、冬の条件と密集した家庭内環境、過去の移住や難民状態など)に起因しています。2020年のWHO/ユニセフの国家予防接種率の推定値は、MCV1が66%、MCV2が43%でした。自治体や地域のレベルでの予防接種率データによると、6つの州でMCV1の接種率が50%未満でした(カンダハル州40%、パクティア州38%、ジョウズジャーン(Jozjan) 州37%、ホースト(Khost) 州36%、ヘルマンド 州18%、ウルズガン(Urozgan) 州3.1%)。2021 年に 698,000 人が国内避難民となったことも、麻疹ワクチン接種率の低さの要因でした。国内避難民は、麻疹への感受性を高める状況(例:予防接種サービスへのアクセスが少ないなど)で生活することが多く、麻疹への曝露を増やす可能性があり(例:人口過密状態など)、さらに健康状態の悪化(例:リスクと栄養不良率の増加、治療サービスへのアクセスが少ないなどの要因による)も経験することとなります。アフガニスタンにおける最近の不安定な状況により起こる人々の国境を越えた移動が、特にパキスタンとイランへの国際的な麻疹の感染拡大のリスクを高めています。

国レベルでの全体的なリスクは、以下の理由により非常に高いと評価されています。

1.長期にわたる麻疹ワクチン接種率の低さにより、多くの感受性人口が蓄積されていること
2.国内避難民の数が多いこと
3.栄養失調やビタミンA不足の割合が高いため、死亡率が上昇する可能性があり、特に冬期には遠隔地で増加すると予想されます。
4.医療施設における設備、物資、熟練スタッフの不足による不十分な症例管理と、冬期間の医療施設へのアクセスには長時間を要す、または困難となること
5.農村部の人々は医療へのアクセスが困難であること

地域的なリスクは、タジキスタン、イラン、パキスタンへの人の移動により中程度と考えられ、世界レベルでは、世界の麻疹ワクチン接種率の推定値が中程度であることから、リスクは低いと考えられています。近隣諸国からのより多くの情報と、移動の傾向の継続的な監視が必要です。

WHOからのアドバイス

免疫を確保するために、すべての州で2回接種の麻疹ワクチン接種率が95%以上であることが推奨されます。定期予防接種を徹底し、流行に対応した予防接種キャンペーンを実施することは、流行を効果的にコントロールし、死亡率を減少させるために不可欠です。

特に栄養失調の状況下でビタミンAを投与することは、罹患率と死亡率の低減に不可欠です。その他、麻疹の予防と対策に不可欠なものは、以下となります。

・2022年第1四半期の間に、現在発生している麻疹の流行に対して、迅速かつ効果的な対応を実施すること。そして、定期的な予防接種と2022年後半に予定されている補足的ワクチン接種活動(SIA)のためのシステムを確立し、強化すること。

・アウトブレイクコントロールの重要な戦略として、質の高い、麻疹症例に基づいたサーベイランスを確保すること。
・麻疹患者の早期発見と確認により、罹患率と死亡率を減らすために適時適切な症例管理を行い、さらなる感染拡大を抑制するための適切な公衆衛生戦略の実施を可能にすること。
・ワクチン未接種集団や接種率が低く、ワクチン接種の促進が必要な発生リスクの高い地域を特定すること。
・地域社会と関わり、地域社会の懸念や意見に耳を傾け、地域社会のニーズや考え方に沿って発生時の対応を継続的に改善することで、双方向の対話を確立すること。
・麻疹発生の根本原因を特定し、免疫力のギャップやシステムの弱点に対処することで、将来の発生のリスクを軽減するよう努めること。
・医療従事者へのワクチン接種を徹底し、医療現場での感染を減らし、脆弱な人々への感染リスクを軽減すること。
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