プロレス界を駆け巡ったマット菌|海外から持ち込まれた皮膚感染症の広がり

格闘技の現場でマット菌と呼ばれる皮膚感染症があります。正式にはトンズランス菌による皮膚真菌症で、もともと日本には存在しなかった菌です。海外から持ち込まれたこの菌が、なぜプロレス・格闘技の世界を駆け巡り、いま学生スポーツやフィットネスの現場にまで広がっているのか。その経緯を整理します。

「マット菌」という呼び名の由来

マット菌という呼称は、医学的な正式名称ではありません。格闘技の練習用マットを介して感染が広がることから、競技者のあいだで自然に定着した呼び方です。同じ菌が「新型水虫菌」と呼ばれることもあります。

呼び名が競技の現場から生まれたという事実そのものが、この菌と格闘技の結びつきの強さを示しています。医学の用語としてではなく、選手が実際に困った経験から名前がついたということです。

海外から持ち込まれ、日本では2001年に確認

トンズランス菌は、もともと日本国内には見られなかった菌です。20世紀に入り交通機関が発達したことで、北米、オーストラリア、アジアへと感染域が急速に拡大しました。日本で確認されたのは2001年のことです。

国際大会への出場や海外遠征、外国人選手の来日といった競技者の往来が、菌の移動経路になったと考えられています。国境を越えて選手が行き来する競技であるほど、持ち込まれる可能性は高くなります。

なぜ格闘技の現場で最初に問題化したのか

格闘技には、菌が広がる条件が揃っています。

肌と肌が直接触れる
組み技系の競技では、練習中ずっと相手と接触した状態が続きます。
擦り傷ができやすい
マットとの摩擦や組み合いで生じた小さな傷が、菌の侵入口になります。
同じマットを共有する
部員全員が同じ面の上で、汗をかきながら練習します。

トンズランス菌は感染力が非常に強く、傷からの菌の侵入速度が他の菌に比べて速いことが研究で明らかになっています。この特性と格闘技の練習環境が重なったことで、プロレス、レスリング、柔道といった競技の現場から問題が表面化していきました。

大会の出場規定にも明記されるように

感染の広がりを受けて、競技団体も対応を始めました。全日本柔道連盟主催大会をはじめ、多くの大会の出場規定にトンズランス感染者の出場可否に関する事項が明記されています。感染すれば大会に出られない可能性があるということです。

プロ選手の場合はさらに直接的です。皮膚感染症に感染すれば遠征に帯同できず、試合に出場できません。試合に出られなければ試合給も支払われません。

いまは学生スポーツ・フィットネスにも

問題はプロの現場にとどまりません。高校・大学の運動部では、部員の入れ替わりがあるために衛生管理のノウハウが代々引き継がれにくく、対策が手薄になりがちです。夏合宿のように練習密度が高まる時期には、集団感染のリスクが跳ね上がります。

さらに近年は、ヨガやピラティス、ボクササイズといった肌の接触と発汗を伴うプログラムが一般化したことで、フィットネス施設でも無関係とは言えない状況になっています。マット菌はもはや、格闘技だけの問題ではありません。

対策は「場」に対して行う

個人の対策として、練習後の早めのシャワーや入浴が効果的とされています。ただし個人の努力だけでは限界があります。菌が滞留しているのは選手の身体ではなく、マットや床、更衣室といった「場」だからです。

プロレスリングの道場やプロボクシングジムなど、プロ選手がトレーニングする現場では、すでに触媒によるマット菌対策が導入されています。第三者機関の試験では、トンズランス菌を接種した触媒加工片から24時間後に菌が検出されず、抗菌活性値4.2超が確認されています。

JIS抗菌試験の結果を見る試験条件・培養写真・抗菌活性値の意味を解説します

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