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【現場責任者の声 #01】なぜ「一番人気の客室」ほどタバコ臭が取れなかったのか|天井裏の盲点

「現場責任者の声」は、ホテル・旅館の禁煙化施工6,000室超の現場で実際に起きたことを、現場責任者がそのまま記録するシリーズです。うまくいった話だけでなく、失敗と、そこから確立した方法までを書き残します。


一番人気のある客室ほど、タバコ臭が取れない

現場責任者として禁煙化施工を6,000室以上見てきて、はっきり言えることがあります。タバコ臭が取れにくい客室には、共通点があるということです。

窓からの眺望が良い部屋。角部屋。つまり、稼働率の高い人気客室です。

理由は単純で、人気の部屋ほど長く・多く使われてきたからです。ホテルにとって一番人気のある部屋ほど、禁煙化のハードルが高い。これが現場の実感です。

室内も空調も完璧に仕上げた。それでも臭った

ある現場でのことです。客室の洗浄は完了。エアコンの分解洗浄も完了。私たちのチェックでも仕上がりに問題はありませんでした。

それでも、臭いが出てくる。

室内でもない、空調でもないとすれば、残る場所はひとつしかありません。天井の中です。

原因は、天井裏の断熱材にあった


ホテル客室の天井裏に施工された断熱材。繊維の中にタバコ臭が蓄積する

天井裏の断熱材。この繊維の奥に、長年のタバコ臭が蓄積していた

天井裏を調査してわかったのは、臭気が天井内に残っているということ。そしてもうひとつ、重要な発見がありました。

関東から北の地域や、比較的新しいホテルの天井内には、断熱材としてグラスウールやロックウールが施工されています。タバコ臭は、この断熱材の繊維の中にまとわりついていたのです。

タバコの煙は軽く、上昇する性質があります。天井材の隙間から天井裏に入り込んだ煙は、長年かけて断熱材の繊維の奥に蓄積していきます。表面をいくら洗浄しても、繊維の中の臭気源には手が届きません。

最初の挑戦:高濃度オゾン——結果は失敗

最初に試したのは、天井内を締め切って高濃度オゾンを充満させる方法でした。

比較的有効かと思われました。しかしオゾンの性質上、届くのは表面の臭いまで。断熱材の繊維の奥に固着した臭気源には作用せず、正直に言って、効果はありませんでした。

(この経験は、私たちが「オゾン脱臭では臭いが戻る」とお伝えしている根拠のひとつでもあります。天井裏におけるオゾンの限界を、現場で自分たちの目で確認しているからです。)

現在の方法:噴霧器ごと天井内に上げる


ホテル客室禁煙化施工の養生。天井点検口と空調吹出口をマスキングした状態

客室側は点検口・吹出口を養生した上で、天井内の施工に入る

試行錯誤の末にたどり着いたのが、三元触媒専用の噴霧器を天井内に持ち上げ、天井内全体に触媒を行き渡らせる方法です。


天井裏タバコ臭対策のため天井内に設置した三元触媒の噴霧器

噴霧器を天井内へ。人が入れない空間に、噴霧粒子で薬剤を届ける

私たちが使用する触媒の噴霧粒子は、タバコの煙の約3分の1の粒径です。タバコの煙が入り込めた場所には、それより細かい粒子はさらに深く入り込める。断熱材の繊維の中の臭気源に、煙と同じ経路で到達させるという発想です。

ただし、この方法にはリスクがあります。私たちは契約前に必ずこのリスクをホテル様にお伝えしています。

リスク①:火災報知器——養生を徹底しても、リスクはゼロにはならない


ホテル禁煙化施工前に養生した客室の火災報知器

火災報知器の養生は、毎回必ず施工の一番最初の工程

火災報知器の養生は、以前から施工の一番最初の工程として全数徹底しています。施工後・お引き渡し前にも全報知器を再確認する、二重チェック体制です。

それでも過去に一度だけ、天井内から漏れた噴霧粒子に報知器が反応した事例がありました。室内側をどれだけ丁寧に養生しても、天井の中までは覆いきれないためです。

だからこそ、私たちは施工前に必ずホテルの支配人様・設備担当者様にこのリスクをそのままお伝えします。すると、ホテル側と一緒に対策が組めるのです。

 チェックアウト後〜チェックイン前の時間帯に天井内噴霧を行う

 施工中の部屋番号を設備担当者様に事前共有し、報知器が反応しても館内発報せずに保守対応で収めていただく

リスクを伏せたまま施工することもできたかもしれません。しかし一度でも館内発報させれば、宿泊されているお客様にご迷惑がかかり、ホテル様との信頼は終わります。リスクを先にお伝えすることが、結果的に一番安全な施工方法でした。

リスク②:触媒のコスト——今も、読みきれません

もうひとつ正直に書きます。天井内にどれだけの触媒を充満させれば臭気が取り切れるのか——これは事前のトリアージではわかりません。

施工前に全客室の汚染状態を確認する客室トリアージを必ず行っていますが、天井裏の断熱材の汚染度だけは、天井を開けるまで読みきれないのです。触媒は高価な薬剤です。実際、想定を超える量が必要になり、予算を圧迫した現場もありました。

では今どうしているか。読みきれない分は、多めに触媒を持参する。それだけです。

不足分を追加費用としてご請求すれば単価が上がり、ホテル様のご負担が増えます。私たちは「臭いが取れるまで施工する」ことをお約束しているので、読み違えた分は自分たちで吸収する。この方針で6,000室やってきました。

私たちが施設に泊まり込みで施工する理由も、実はここにあります。滞在しているからこそ、朝・夜・湿度の高い時間帯と、条件を変えて何度でも臭いをチェックできるのです。天井裏のように事前に読みきれない場所こそ、時間を置いた再確認と追加施工の繰り返しでしか取り切れません。

私たちが、ご契約の前に必ずお伝えしていること

この記事に書いた内容は、特別な打ち明け話ではありません。ご相談をいただいたホテル様に、ご契約の前に毎回そのままご説明していることです。

① 天井裏の断熱材に、どう対処するか
施設の地域・築年から天井内の構造を推定し、噴霧方式と工程を事前にご説明します。

② 施工に伴うリスク
火災報知器の件を含め、起こり得ることを先にお伝えし、設備担当者様と一緒に対策を決めます。

③ 費用の考え方
天井裏の汚染は開けるまで読みきれないこと。その分は追加費用ではなく、触媒の持参量で備えることをお伝えします。

すべてを開示した上でご判断いただく。それが、6,000室を任せていただけた理由だと考えています。

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